今や50歳以上の方の約半数が罹患していると言われている歯周病。人類が誕生してから今日までで一番感染者数の多い感染症としてギネスにも載っているほどです。
最近では歯周病の全身疾患との関係も話題となっています。肺炎、動脈硬化、心臓疾患、糖尿病、早産・・・。いままで無関係と思われていた口腔と全身疾患の関係を知っていただくことは非常に大切です。しかし、一部報道に見られるようないたずらに怖さをあおる過剰な表現により、過度に心配をされる方もいらっしゃいます。
歯周病は本当にそれほど怖い病気なのでしょうか?
歯周病は慢性疾患
歯周病は歯周病原性細菌による感染症であると同時に、喫煙、ブラッシングなどの生活習慣、免疫力、癖など様々な要素が相まって発症する生活習慣病であり、慢性疾患です。抜歯に至る末期にまで進行するには通常かなりの時間がかかりますが、あまり自覚症状が現れないために気づきにくいという特徴があります。しかし、歯科医院や会社の定期検診により見つけることは容易で、早期に発見された歯周病はほとんどの場合、適切な処置、指導により大きな問題には至りません。慢性疾患のため進行は通常遅く、発見が多少遅くても、原因を考えて対策を講じれば、決して恐れる疾患ではありません。
全身へはゆっくりじわじわと影響を及ぼしますが、それら(前述)の疾患の進行には、歯周病だけではなくその他様々な問題が複合的に関与していきます。全身疾患に関与する一因として、歯周病のコントロールは重要ですが、過度に気にすることはありません。
治りやすさには差があります
ほとんどの歯周病は適切な管理方法と処置により快方に向かいますが、ひとえに歯周病といっても、重症度や病態は様々で、その原因も様々です。
全ての歯周病に同じアプローチをすれば良いわけではありません。
大切なことは、まずその重症度を見極めること、つまり歯周病の診断をすることです。
(その際には、少なくともパノラマレントゲン写真、しっかりと診断するためには通常のレントゲン写真撮影が必須です。CT写真は骨欠損が過度に表現される傾向があり、最初の診断には現状では適切とはいえません。)
軽度の歯周病であれば、ほとんどはプラークコントロールと簡単な歯周病治療で改善に向かいます。自覚症状がなく歯科にかかられていない方も含めれば、多くの方の歯周病は軽度です。
中等度?重度に歯周病が進行する方は、何か理由があります。歯磨きの状態、喫煙、免疫力、歯ぎしり、ストレス・・・。様々な要因が重なっているため、治りにくいこともしばしばあります。しかし、 重度の歯周病であっても、快方に向かう患者さんは多くいらっしゃいます。重度の歯周病の方は、その原因を突き止め対策を講じ、その上で満足な機能回復が得られるように一緒に考えていきたいと思います。
大切なことは咬めるようになること
一度進行してしまった歯周病は、多くの場合元には戻りません。(条件が整えば、再生療法という選択肢はありますが、全員が選択できる方法ではありません。)
“治る=完治” は現実的でなくとも、ほとんどの歯周病は適切な診断をし管理方法を覚えることにより”良く”なりますが、喫煙、その他のリスクファクターが重なり、残念ながら”良く”ならない歯周病も中にはあります。しかし、それで咬めるようになる(機能回復の)道が閉ざされたわけではありません。たとえ数本の歯を失うことになったとしても、様々な方法(義歯やインプラント)により、ほとんどの患者さんは満足な機能回復(咬めるということ)が得られています。
大切なことは咬めるようになること、そしてその状態を持続させることです。
良い状態を持続させるためには
中途半端ではなく、きちんと治した歯周病は簡単には再発を起こしません。そして、その状態を維持することは決して難しいことではありません。
一度きちんと歯周病を治すことが大切です。
ここでも重症度の判断が重要ですが、治りの悪い重度の歯周病に罹患された方は、悪くなるスピードを遅くすることが目標となります。そのためには、2、3ヶ月に一度の短い間隔でのメインテナンスが必要です。
特にリスクが高くない多くの方の場合、年に2、3回の定期検診で歯周病のコントロールは十分に可能です。
たとえ数回途絶えてしまっても、少なくとも年1回は検診を受けましょう。